楽典 UNIT 21
20世紀和声
20th Century Harmony
脱調性
主要概念
12音
技法
旋法復活
印象主義の特徴
10問
演習問題数
この単元について
20世紀の音楽語法は多岐にわたる。音楽大学受験では「印象主義の特徴(全音音階・平行5度)」と「12音技法の概念」が頻出。歴史的流れとともに整理しよう。
20世紀和声の主要潮流(概観)
1890年代〜
調性の拡張:ワーグナー後期、マーラー、R.シュトラウスによる極限的半音階主義
1890〜1920
印象主義:ドビュッシー・ラヴェル。全音音階・旋法・平行5度・非機能和声
1908〜
表現主義・無調:シェーンベルク初期。調性を否定した自由な無調音楽
1920年代〜
12音技法:シェーンベルクが体系化。ウェーベルン・ベルクが発展
1920〜40
ネオクラシシズム:ストラヴィンスキー・ヒンデミット。古典形式を現代語法で
1960年代〜
ミニマリズム:フィリップ・グラス、スティーヴ・ライヒ。反復パターン
1970年代〜
スペクトル音楽:グリゼー、ミュライユ。自然倍音を和声基盤に
学習の進め方
1
調性の拡張・崩壊タブで歴史的背景を理解(10分)
2
印象主義と旋法タブで最頻出の知識を習得(20分)
3
12音技法タブで音列の概念を把握(20分)
4
演習10問 → 添削課題提出(20分)
受験での出題範囲
日本の音楽大学入試では「20世紀和声」はドビュッシーの全音音階・平行5度と、シェーンベルクの12音技法の概念程度が主流。ネオクラシシズムも問われることがある。バルトーク・メシアンは上位校で稀に出題。
日本の音楽大学入試では「20世紀和声」はドビュッシーの全音音階・平行5度と、シェーンベルクの12音技法の概念程度が主流。ネオクラシシズムも問われることがある。バルトーク・メシアンは上位校で稀に出題。
調性の拡張と崩壊
後期ロマン派の半音階主義が極限に達し、調性中心が解体されるまでの流れを理解する。
ワーグナーから無調へ(歴史的流れ)
① ワーグナー後期(1850〜1880年代)
「トリスタンとイゾルデ」(1865)のトリスタン和音(F-B-D♯-G♯)は解決しない和音の象徴。
半音階的進行が和声機能を曖昧にし、「どこが主音か」が不明確になる。
「トリスタンとイゾルデ」(1865)のトリスタン和音(F-B-D♯-G♯)は解決しない和音の象徴。
半音階的進行が和声機能を曖昧にし、「どこが主音か」が不明確になる。
② マーラー・R.シュトラウス(1880〜1910年代)
遠隔調への頻繁な転調・複調的な響き。調性はあるが重心が定まらない状態。
「拡張された調性」(extended tonality)と呼ぶ。
遠隔調への頻繁な転調・複調的な響き。調性はあるが重心が定まらない状態。
「拡張された調性」(extended tonality)と呼ぶ。
③ シェーンベルク初期(1908〜)
「三つのピアノ小品 Op.11」(1909)で自由無調(free atonality)へ到達。
調性中心を意図的に回避。ただし「何でもあり」ではなく緊密な動機的論理が支配する。
「三つのピアノ小品 Op.11」(1909)で自由無調(free atonality)へ到達。
調性中心を意図的に回避。ただし「何でもあり」ではなく緊密な動機的論理が支配する。
「調性の崩壊」は突然ではない
バッハ → ベートーヴェン → ワーグナー → シェーンベルクという流れは「論理的な連鎖」。半音階が増えるほど調性が曖昧になり、最終的に調性が消えた。シェーンベルク自身は「革命」でなく「進化」と捉えた。
バッハ → ベートーヴェン → ワーグナー → シェーンベルクという流れは「論理的な連鎖」。半音階が増えるほど調性が曖昧になり、最終的に調性が消えた。シェーンベルク自身は「革命」でなく「進化」と捉えた。
「トリスタン和音」の特殊性
構成音: F - B - D♯ - G♯(または F-B-D♯-A♭ と異名同音で表記)
何の和音か: 長年議論が続く(フランス増六?半減七?の異名同音的解釈など)
特徴: 解決が先送りにされ、オペラ全体を貫く「未解決の緊張」を象徴
音楽史的意義: この「不解決」の徹底が20世紀無調音楽への扉を開いた
何の和音か: 長年議論が続く(フランス増六?半減七?の異名同音的解釈など)
特徴: 解決が先送りにされ、オペラ全体を貫く「未解決の緊張」を象徴
音楽史的意義: この「不解決」の徹底が20世紀無調音楽への扉を開いた
印象主義と旋法
ドビュッシー・ラヴェルが開拓した新しい音語法。全音音階・教会旋法・平行5度が三大特徴。受験最頻出。
全音音階(Whole-tone Scale)
構成: 全て全音(長2度)の間隔で構成される6音音階
例: C - D - E - F♯ - G♯ - A♯(C全音音階)
または D♭ - E♭ - F - G - A - B(もう一つの全音音階)
特徴:
・半音がないため「解決感」がなく浮遊した印象
・主音が定まらず、どの音も対等に聞こえる
・増三和音(長3度×2)が和声の核になる
代表例: ドビュッシー「帆」(前奏曲集)、「海」の一部
例: C - D - E - F♯ - G♯ - A♯(C全音音階)
または D♭ - E♭ - F - G - A - B(もう一つの全音音階)
特徴:
・半音がないため「解決感」がなく浮遊した印象
・主音が定まらず、どの音も対等に聞こえる
・増三和音(長3度×2)が和声の核になる
代表例: ドビュッシー「帆」(前奏曲集)、「海」の一部
教会旋法(Church Modes)の復活
| 旋法名 | 音(白鍵の例) | 印象的な効果 |
|---|---|---|
| ドリア(Dorian) | D〜D | 神秘的・民族的 |
| フリギア(Phrygian) | E〜E | 東洋的・暗い |
| リディア(Lydian) | F〜F | 明るい・夢幻的(♯4度) |
| ミクソリディア(Mixolydian) | G〜G | 牧歌的・民謡風(♭7度) |
| エオリア(Aeolian) | A〜A | 自然短音階と同じ |
| ロクリア(Locrian) | B〜B | 不安定(減5度) |
平行5度の意図的使用
古典和声の規則:声部間の平行5度は厳禁(空洞な響きで独立性が失われるため)
印象主義での使い方:
ドビュッシーは中世のオルガヌム(平行声部の聖歌)を意図的に引用。
「禁則」を破ることで古代的・異国的な音響色彩を生み出した。
効果: 和声機能が解消され、色彩(timbre/color)としての和声を実現
印象主義での使い方:
ドビュッシーは中世のオルガヌム(平行声部の聖歌)を意図的に引用。
「禁則」を破ることで古代的・異国的な音響色彩を生み出した。
効果: 和声機能が解消され、色彩(timbre/color)としての和声を実現
ドビュッシーの3大特徴を暗記
受験で「印象主義の特徴」を問われたら:①全音音階の使用、②教会旋法の復活、③平行5度の意図的使用 — これらを必ず答えること。さらに「非機能和声(和音が機能的に進行しない)」も追加できれば完璧。
受験で「印象主義の特徴」を問われたら:①全音音階の使用、②教会旋法の復活、③平行5度の意図的使用 — これらを必ず答えること。さらに「非機能和声(和音が機能的に進行しない)」も追加できれば完璧。
12音技法・序列主義
シェーンベルクが1920年代に体系化した12音技法。12の半音全てを平等に使い、調性中心を排除する。
12音技法の基本原理
音列(Tone Row / Zwölftontechnik):
12の半音音程を全て1度ずつ使った順列(配列)を作る。この配列を「音列(row)」と呼ぶ。
音列の4形態:
① 原形(Prime / P):音列そのまま
② 逆行(Retrograde / R):音列を逆順に演奏
③ 反行(Inversion / I):各音程の上下を逆にする(鏡像)
④ 逆行反行(Retrograde Inversion / RI):反行を逆順に
さらに各形態は12の移高(転位)ができるので、合計 4 × 12 = 48通りの変形がある。
12の半音音程を全て1度ずつ使った順列(配列)を作る。この配列を「音列(row)」と呼ぶ。
音列の4形態:
① 原形(Prime / P):音列そのまま
② 逆行(Retrograde / R):音列を逆順に演奏
③ 反行(Inversion / I):各音程の上下を逆にする(鏡像)
④ 逆行反行(Retrograde Inversion / RI):反行を逆順に
さらに各形態は12の移高(転位)ができるので、合計 4 × 12 = 48通りの変形がある。
12音技法の作曲家
シェーンベルク
創始者(1874〜1951)
ピアノ組曲 Op.25が最初期の12音作品
ウィーン楽派の指導者
ピアノ組曲 Op.25が最初期の12音作品
ウィーン楽派の指導者
ウェーベルン
点描的・極度に凝縮
交響曲 Op.21が代表
序列主義への橋渡し
交響曲 Op.21が代表
序列主義への橋渡し
ベルク
叙情的・感情豊か
ヴァイオリン協奏曲
調性的要素も残す
ヴァイオリン協奏曲
調性的要素も残す
序列主義(Serialism)
12音技法をさらに発展させ、音程だけでなくリズム・強弱・音色も「音列」で制御する技法。
代表:メシアン「音価と強度のモード」、ブーレーズ「ピアノソナタ第2番」
特徴:論理的・数学的な構造。聴感的には難解だが高度に組織化されている。
代表:メシアン「音価と強度のモード」、ブーレーズ「ピアノソナタ第2番」
特徴:論理的・数学的な構造。聴感的には難解だが高度に組織化されている。
受験での最低限の知識
12音技法では:①「音列」の定義(12音を1度ずつ使う)、②作曲家(シェーンベルク)、③4形態(原形・逆行・反行・逆行反行)、④調性を否定するが無秩序ではない点 — この4点を答えられれば十分。
12音技法では:①「音列」の定義(12音を1度ずつ使う)、②作曲家(シェーンベルク)、③4形態(原形・逆行・反行・逆行反行)、④調性を否定するが無秩序ではない点 — この4点を答えられれば十分。
ネオクラシシズムと折衷主義
20世紀に古典形式を現代語法で書き直したネオクラシシズム、そして様々な語法を混合した折衷主義を概観する。
ネオクラシシズム(新古典主義)
ストラヴィンスキー
「プルチネッラ」(1920)でネオクラシシズムの幕開け。
バロック・古典の形式(コンチェルト・グロッソ、フーガ等)を現代的不協和音で彩る。
「調性はあるが複雑な不協和音」が特徴。
バロック・古典の形式(コンチェルト・グロッソ、フーガ等)を現代的不協和音で彩る。
「調性はあるが複雑な不協和音」が特徴。
ヒンデミット
「拡張された調性」を理論化。
調性はあるが複雑な和声進行。
「作曲家の手引き」で独自の和声理論を体系化。
現代的だが伝統的枠組みを保持。
調性はあるが複雑な和声進行。
「作曲家の手引き」で独自の和声理論を体系化。
現代的だが伝統的枠組みを保持。
その他の重要な20世紀語法
| 作曲家 | 語法・特徴 | 代表作 |
|---|---|---|
| バルトーク | 民族音楽+調性(軸システム) | 弦楽四重奏曲群 |
| メシアン | 限定移調旋法・リズム序列 | 世の終わりのための四重奏 |
| フィリップ・グラス | ミニマリズム(反復パターン) | アインシュタイン・オン・ザ・ビーチ |
| スティーヴ・ライヒ | ミニマリズム・フェイジング | Piano Phase |
| グリゼー | スペクトル音楽(倍音列) | Partiels |
「春の祭典」とネオクラシシズムの違い
春の祭典(1913)
ロシア原始主義期の作品
激しい不規則拍子・複調
民族的・儀式的暴力美
旋法的・多調的語法
激しい不規則拍子・複調
民族的・儀式的暴力美
旋法的・多調的語法
ネオクラシシズム期(1920〜)
プルチネッラ以降
バロック・古典形式を枠組みに
節度あるユーモア・洗練
調性感が戻ってくる
バロック・古典形式を枠組みに
節度あるユーモア・洗練
調性感が戻ってくる
受験での出題ポイント
「ストラヴィンスキー=ネオクラシシズム」「ドビュッシー=印象主義・全音音階」「シェーンベルク=12音技法」の3セットは必ず覚えること。作品名まで問われる場合は「春の祭典(ストラ)」「ペレアスとメリザンド(ドビュッシー)」「月に憑かれたピエロ(シェーンベルク)」が定番。
「ストラヴィンスキー=ネオクラシシズム」「ドビュッシー=印象主義・全音音階」「シェーンベルク=12音技法」の3セットは必ず覚えること。作品名まで問われる場合は「春の祭典(ストラ)」「ペレアスとメリザンド(ドビュッシー)」「月に憑かれたピエロ(シェーンベルク)」が定番。
演習問題(10問)
20世紀の主要な作曲語法・作曲家・技法に関する問題。8問以上で添削課題へ。
添削課題(単元21)
紙に答えを書いて写真撮影後、LINEで「楽典 単元21」と明記して提出してください。
提出方法:① A4白紙に問題番号と答えを記入 ② スマホで撮影 ③ LINEの「課題提出」メニューから送信
問1(10点)
ドビュッシーが印象主義音楽で使った3つの和声的特徴(全音音階・旋法・平行5度)を説明し、伝統的和声との違いを述べよ。
各特徴の説明3点(×3)、伝統的和声との違い1点。
問2(10点)
シェーンベルクの12音技法で使われる「音列の4形態」(原形・逆行・反行・逆行反行)を説明せよ。各形態が何を操作するのかを明確にすること。
各形態の説明2.5点 × 4 = 10点。
問3(10点)
20世紀初頭に「調性が崩壊した」理由を、ワーグナー〜シェーンベルクの流れで説明せよ(3段階で記述すること)。
ワーグナーの段階3点、中間段階(マーラー等)3点、シェーンベルクへの到達4点。
問4(10点)
ストラヴィンスキーの「春の祭典」とネオクラシシズム期の作品を比較し、それぞれの和声語法の特徴を述べよ。
春の祭典の特徴5点(不規則拍子・複調・原始主義)、ネオクラシシズムの特徴5点。
問5(10点)
日本の音楽大学受験において「20世紀和声」が出題される範囲と重要作曲家を挙げ、学習優先度(何から始めるべきか)を説明せよ。
出題範囲の把握4点(印象主義・12音技法が優先)、重要作曲家の列挙3点、学習優先度の論述3点。
採点基準(講師用)
問配点合格目安主な失点パターン
問1 印象主義10点8点平行5度を「禁則」とだけ書く
問2 12音技法10点8点反行と逆行を混同する
問3 歴史的流れ10点7点3段階の区分が曖昧
問4 比較10点7点春の祭典の具体的特徴が薄い
問5 受験範囲10点7点優先度の根拠が述べられない
合計50点40点以上で次単元へ