楽典 UNIT 10
転調
Modulation
4
転調の方法
近親調
主な転調先
調号
識別の鍵
10問
演習問題数
この単元について
転調(Modulation)は楽曲の中で調が変わること。ピアノ・声楽・作曲の試験で頻出する分析技術。
この単元で身につけること
- ●属調・下属調・平行調・同主調の定義と調号変化を即答できる
- ●ピボット和音(共通和音)転調のしくみを理解できる
- ●直接転調・半音階的転調・異名同音転調の特徴を説明できる
- ●楽譜内の臨時記号・調号変化から転調を発見・分析できる
- ●主要調(ハ長調・ト長調・ヘ長調等)の近親調を全て挙げられる
学習の進め方
1
転調とは・近親調タブで基本概念を整理(15分)
2
ピボット和音転調タブで最重要技法を習得(15分)
3
転調の分析手順タブで実践的な読み方を確認(10分)
4
演習10問 → 添削課題提出(20分)
受験での重要度:最高
和声・楽曲分析・聴音すべてで転調の概念が問われます。特に近親調の関係とピボット和音の特定は必須。「この楽曲はどこで何調に転調しているか」を論述させる問題が多い。
和声・楽曲分析・聴音すべてで転調の概念が問われます。特に近親調の関係とピボット和音の特定は必須。「この楽曲はどこで何調に転調しているか」を論述させる問題が多い。
転調とは
楽曲の中で調(主音と調号)が変化すること。一時的な変化(転換)と持続的な変化(転調)を区別する。
近親調の定義(ハ長調 C major を例に)
ハ長調(C major)
♯♭なし
ト長調(G major)
属調:♯1個・完全5度上
ヘ長調(F major)
下属調:♭1個・完全4度上
イ短調(a minor)
平行調:同じ調号・長3度下
ハ短調(c minor)
同主調:同じ主音・♭3個
近親調一覧表(主要調)
| 元の調 | 属調(5度上) | 下属調(4度上) | 平行短調 | 同主短調 |
|---|---|---|---|---|
| ハ長調 C | ト長調 G(♯1) | ヘ長調 F(♭1) | イ短調 Am(±0) | ハ短調 cm(♭3) |
| ト長調 G | ニ長調 D(♯2) | ハ長調 C(±0) | ホ短調 em(♯1) | ト短調 gm(♭2) |
| ヘ長調 F | ハ長調 C(±0) | 変ロ長調 B♭(♭2) | ニ短調 dm(♭1) | ヘ短調 fm(♭4) |
| ニ長調 D | イ長調 A(♯3) | ト長調 G(♯1) | ロ短調 bm(♯2) | ニ短調 dm(♭1) |
| 変ロ長調 B♭ | ヘ長調 F(♭1) | 変ホ長調 E♭(♭3) | ト短調 gm(♭2) | 変ロ短調 b♭m(♭5) |
4種類の近親調の特徴
属調(Dominant key)
・完全5度上の調
・調号が♯1個増える(♭なら1個減る)
・明るく前進するイメージ
・ソナタ形式の第2主題に多用
・調号が♯1個増える(♭なら1個減る)
・明るく前進するイメージ
・ソナタ形式の第2主題に多用
下属調(Subdominant key)
・完全4度上(5度下)の調
・調号が♭1個増える(♯なら1個減る)
・柔らかく落ち着くイメージ
・変奏曲でよく使われる
・調号が♭1個増える(♯なら1個減る)
・柔らかく落ち着くイメージ
・変奏曲でよく使われる
平行調(Relative key)
・同じ調号を持つ長・短調のペア
・長調から長3度(短3度)下の短調
・調号の変化なし→転調しやすい
・長→短で暗くなる効果
・長調から長3度(短3度)下の短調
・調号の変化なし→転調しやすい
・長→短で暗くなる効果
同主調(Parallel key)
・同じ主音・異なる調号
・C major ↔ c minor
・調号が大きく変わる(♭3個差)
・劇的な明暗の変化を生む
・C major ↔ c minor
・調号が大きく変わる(♭3個差)
・劇的な明暗の変化を生む
五度圏での近親調の位置
五度圏(クインテンツィルケル)では近隣の調が近親調。1ステップ隣(♯♭が1個違う)が属調・下属調。同じ位置の内側/外側が平行調。
五度圏(クインテンツィルケル)では近隣の調が近親調。1ステップ隣(♯♭が1個違う)が属調・下属調。同じ位置の内側/外側が平行調。
ピボット和音転調(共通和音転調)
転調前後の2つの調に共通して存在する和音を「ピボット(軸)」として使い、なめらかに転調する技法。
ピボット和音の仕組み
基本的な手順:
① 転調前の調と転調後の調に共通する三和音を探す
② その和音を、転調前の調でのローマ数字で演奏し始め…
③ 同じ和音を転調後の調のローマ数字として「再解釈」する
④ 転調後の調でD(ドミナント)→T(トニック)の終止を作る
① 転調前の調と転調後の調に共通する三和音を探す
② その和音を、転調前の調でのローマ数字で演奏し始め…
③ 同じ和音を転調後の調のローマ数字として「再解釈」する
④ 転調後の調でD(ドミナント)→T(トニック)の終止を作る
例:ハ長調(C major)→ ト長調(G major)
共通和音を探す
| 和音 | 構成音 | C major でのローマ数字 | G major でのローマ数字 |
|---|---|---|---|
| C-E-G | ドミソ | I | IV ← ピボット候補 |
| G-B-D | ソシレ | V | I ← ピボット候補 |
| E-G-B | ミソシ | iii | vi |
| A-C-E | ラドミ | vi | ii |
実際の転調進行例:
C: I — IV — 【ピボット: C major IV = G major I】
G: I — V7 — I
↑ G-B-Dの和音を「Cの中のV」として使い始め、「Gの中のI」として着地する
C: I — IV — 【ピボット: C major IV = G major I】
G: I — V7 — I
↑ G-B-Dの和音を「Cの中のV」として使い始め、「Gの中のI」として着地する
例:ハ長調 → イ短調(平行調転調)
| 和音 | C major | a minor | ピボット適性 |
|---|---|---|---|
| A-C-E(ラドミ) | vi | i | ★最良のピボット |
| E-G-B(ミソシ) | iii | V(自然短) | ★ピボット候補 |
| D-F-A(レファラ) | ii | iv | 可能 |
ピボット和音の記譜法(分析)
楽譜分析ではピボット和音に二重のローマ数字を書く:
C: vi → a: i(同じ和音を両方の調で表記)
これを「二重機能(dual function)」という。
楽譜分析ではピボット和音に二重のローマ数字を書く:
C: vi → a: i(同じ和音を両方の調で表記)
これを「二重機能(dual function)」という。
ピボット和音の選び方のコツ
・転調先のIV・V・I に当たる和音が安定している
・転調前の弱めの和音(ii, iii, vi)をピボットにすると自然
・サブドミナント機能の和音が最もよく使われる
・転調先のIV・V・I に当たる和音が安定している
・転調前の弱めの和音(ii, iii, vi)をピボットにすると自然
・サブドミナント機能の和音が最もよく使われる
その他の転調方法
ピボット和音以外の3つの転調法。それぞれ独自の効果と使用場面を持つ。
4つの転調方法まとめ
| 方法 | 特徴 | なめらかさ | 使用例・効果 |
|---|---|---|---|
| ピボット和音転調 | 共通和音を経由 | ★★★ 最もなめらか | 古典・ロマン派全般。ソナタ形式の呈示部など |
| 直接転調 | 準備なしに突然転調 | ★ 鋭い | ベートーヴェン。劇的な効果。突然♯♭が変わる |
| 半音階的転調 | 半音関係の和音を経由 | ★★ やや滑らか | ロマン派。色彩的変化。シューベルト等に多い |
| 異名同音転調 | G♯=A♭等を利用 | ★★ 巧妙 | 減七和音・増六和音を使う高度な転調 |
直接転調(Direct Modulation)
準備なしに突然調が変わる。前の調の終止の直後に新しい調の主和音が来る。
例: C major の I → (突然)E major の I(ミ ソ♯ シ)
・ 調号が3個分も違う遠隔転調でも可能
・ 聴き手に驚きと新鮮さを与える
・ モダンポップ・ロックでは「キーチェンジ」と呼ばれる
例: C major の I → (突然)E major の I(ミ ソ♯ シ)
・ 調号が3個分も違う遠隔転調でも可能
・ 聴き手に驚きと新鮮さを与える
・ モダンポップ・ロックでは「キーチェンジ」と呼ばれる
半音階的転調(Chromatic Modulation)
同じ声部が半音移動することで転調。2つの和音が半音関係。
例: C major の I(C-E-G)→ C♯ major の I(C♯-E♯-G♯)
Cが半音上に移動してC♯になる = 半音階的転調
・ロマン派(シューベルト・ショパン等)で頻出
・色彩感・神秘感を生む
例: C major の I(C-E-G)→ C♯ major の I(C♯-E♯-G♯)
Cが半音上に移動してC♯になる = 半音階的転調
・ロマン派(シューベルト・ショパン等)で頻出
・色彩感・神秘感を生む
異名同音転調(Enharmonic Modulation)
同じ音高で異なる音名を持つ音(異名同音)を利用した転調。
典型例①:減七和音
B-D-F-A♭ = B-D-F-G♯(異名同音で書き換え)
G♯を根音と見れば G♯短調の vii°7 として機能する
典型例②:増六和音(独・仏・伊)
A♭-C-E♭-F♯ ≡ A♭-C-E♭-G♭(G♭=F♯)
典型例①:減七和音
B-D-F-A♭ = B-D-F-G♯(異名同音で書き換え)
G♯を根音と見れば G♯短調の vii°7 として機能する
典型例②:増六和音(独・仏・伊)
A♭-C-E♭-F♯ ≡ A♭-C-E♭-G♭(G♭=F♯)
試験での出題パターン
①「この転調はどの方法か答えよ(ピボット・直接・半音階・異名同音)」
②「次の楽譜でピボット和音を特定し、両調でのローマ数字を書け」
③「直接転調の特徴と効果を述べよ」
①「この転調はどの方法か答えよ(ピボット・直接・半音階・異名同音)」
②「次の楽譜でピボット和音を特定し、両調でのローマ数字を書け」
③「直接転調の特徴と効果を述べよ」
転調の分析手順
楽譜や和声課題で転調を見つけるための実践的な手順。
転調発見の3ステップ
1
臨時記号と調号変化を探す
元の調にない♯や♭が出てきたら転調のサイン。それが何調の音か考える。特に「新しいドミナント音(導音)の出現」に注目。
2
新しい V7 → I を探す
転調後の調のドミナント(V7)からトニック(I)への進行を探す。この「D→T」の確立が転調の確定。何調の V7→I が鳴っているかで転調先を特定。
3
ピボット和音(転調点)を特定する
新しいV7が現れた直前の和音がピボット候補。その和音が両方の調に属しているか確認。属していれば「○調のXX = △調のYY」と記録する。
実践例:ハ長調 → ト長調の分析
和声進行:I - IV - ii - V - [ここから] - D7(ソシレファ) - G(ソシレ)
分析:
・D7 = V7 of G major(ト長調の属七)が出現
・臨時記号:F♯が現れれば G major の V7 の確認
・ト長調のV7(D-F♯-A-C)→ I(G-B-D)が成立
・直前の ii(D-F-A)= C major の ii = G major の vi → ピボット!
・C: ii = G: vi がピボット和音
分析:
・D7 = V7 of G major(ト長調の属七)が出現
・臨時記号:F♯が現れれば G major の V7 の確認
・ト長調のV7(D-F♯-A-C)→ I(G-B-D)が成立
・直前の ii(D-F-A)= C major の ii = G major の vi → ピボット!
・C: ii = G: vi がピボット和音
転調分析のチェックリスト
- ✓元の調号で説明できない音(臨時記号)がある
- ✓新しいV7和音とその解決先(I)が確認できる
- ✓転調の種類(ピボット/直接/半音階/異名同音)を特定した
- ✓ピボット和音の場合、両調のローマ数字を書いた
- ✓転調後の調が元の調の近親調かどうか確認した
転換(Tonicization)と転調の違い
転換(副次的ドミナント):一時的に他の調のV7が現れるが、すぐ元の調に戻る(1〜2小節)
転調:新しい調が定着し、明確なT-D-Tの確立がある(4小節以上が目安)
試験では「一時転換か転調か」の判断が問われることもある。
転換(副次的ドミナント):一時的に他の調のV7が現れるが、すぐ元の調に戻る(1〜2小節)
転調:新しい調が定着し、明確なT-D-Tの確立がある(4小節以上が目安)
試験では「一時転換か転調か」の判断が問われることもある。
演習問題(10問)
転調・近親調・ピボット和音の問題です。8問以上で添削課題へ進んでください。
添削課題(単元10)
紙に答えを書いて写真撮影後、LINEで「楽典 単元10」と明記して提出してください。
提出方法:① A4白紙に問題番号と答えを記入 ② スマホで撮影 ③ LINEの「課題提出」メニューから送信
問1 — 近親調(10点)
次の調の属調・下属調・平行調・同主調を書け。
① ハ長調 ② ト長調 ③ ヘ長調 ④ ニ長調 ⑤ 変ロ長調
① ハ長調 ② ト長調 ③ ヘ長調 ④ ニ長調 ⑤ 変ロ長調
各調につき2点(4種類×0.5点)。
問2 — ピボット和音(10点)
ハ長調→ト長調のピボット和音転調において考えられる共通和音を2つ挙げ、それぞれ両調でのローマ数字を書け。
各5点(共通和音の構成音2点・両調のローマ数字各1.5点)。
問3 — 転調の方法(10点)
転調の4つの方法(ピボット・直接・半音階的・異名同音)について、それぞれ特徴と使われる効果を説明せよ。
各2.5点(特徴1.5点・効果1点)。
問4 — 転調の分析(10点)
次の和声進行の転調を分析せよ(ハ長調スタート):
C: I – IV – V – I – [転調] – G: IV – V7 – I
① どこで転調しているか(小節・拍) ② 何調へ転調しているか ③ ピボット和音はどれか(両調でのローマ数字を示す)
C: I – IV – V – I – [転調] – G: IV – V7 – I
① どこで転調しているか(小節・拍) ② 何調へ転調しているか ③ ピボット和音はどれか(両調でのローマ数字を示す)
①3点・②3点・③4点。
問5 — 近親調と調号(10点)
ニ長調(♯2個)の近親調(属調・下属調・平行調・同主調)を全て書き、それぞれの調号(♯・♭の数)も記せ。
調名2点・調号各2点 = 合計10点。
採点基準(講師用)
問配点合格目安主な失点パターン
問1 近親調10点8点平行調と同主調の混同
問2 ピボット10点7点ローマ数字の誤り
問3 4方法10点7点異名同音転調の説明不足
問4 分析10点7点ピボット特定の誤り
問5 近親調+調号10点8点調号の♯♭数の誤り
合計50点40点以上で次単元へ