楽典 UNIT 19
増六和音
Augmented Sixth Chords
3種類
伊・仏・独
+6
増6度音程
D準備
和声機能
10問
演習問題数
この単元について
増六和音はイタリア・フランス・ドイツの3種類。短調の特徴的な半音階的和音で、Vへの強烈な推進力を持つ。上位校の分析問題の頻出事項。
この単元で身につけること
- ●3種類の増六和音(伊・仏・独)の構成音をハ短調で全て答えられる
- ●増6度(♭6 と ♯4)が外側に開いてVの根音(8度)へ解決する規則を説明できる
- ●ドイツ増六がI6/4を経由して解決する理由(連続5度回避)を述べられる
- ●楽曲分析で増六和音を見分け、伊/仏/独の種類を判定できる
学習の進め方
1
増六和音とはタブで共通構造を把握(10分)
2
イタリア・フランス増六タブで2種を習得(15分)
3
ドイツ増六タブで最重要の種類と解決法を習得(15分)
4
演習10問 → 添削課題提出(20分)
受験での重要度:高
増六和音は3種類の名称・構成音・解決先を全てセットで覚えること。特にドイツ増六とI6/4の関係・増6度が外側に半音解決する規則は記述問題で必ず問われる。
増六和音は3種類の名称・構成音・解決先を全てセットで覚えること。特にドイツ増六とI6/4の関係・増6度が外側に半音解決する規則は記述問題で必ず問われる。
増六和音の共通構造
イタリア・フランス・ドイツの3種全てに共通する核心:♭6度音と♯4度音が「増6度」を形成する。
共通する2つの音(ハ短調の場合)
♭6度音:A♭
短調の第6音を半音下げた音
(ハ短調の自然短音階のA♭)
→ 増6和音の「低音側」の音
(ハ短調の自然短音階のA♭)
→ 増6和音の「低音側」の音
♯4度音:F♯
下属音(F)を半音上げた音
(調号外の臨時♯)
→ 増6和音の「高音側」の音
(調号外の臨時♯)
→ 増6和音の「高音側」の音
A♭ と F♯ の音程 = 増6度(半音10個 = 短7度より半音広い)
この増6度が外側に半音ずつ開いてVの根音(G)の8度へ解決する:
A♭ → G(半音下行)
F♯ → G(半音上行)
→ 両声部が反行してVの根音Gに収束する = 強烈なドミナントへの推進力
この増6度が外側に半音ずつ開いてVの根音(G)の8度へ解決する:
A♭ → G(半音下行)
F♯ → G(半音上行)
→ 両声部が反行してVの根音Gに収束する = 強烈なドミナントへの推進力
「増6度」が名前の由来
A♭とF♯という外側の2音が増6度(augmented sixth)を形成することが全ての増六和音に共通。この音程関係を起点として3種の違いを理解しよう。
A♭とF♯という外側の2音が増6度(augmented sixth)を形成することが全ての増六和音に共通。この音程関係を起点として3種の違いを理解しよう。
3種類の増六和音の概観(ハ短調)
| 種類 | 略号 | 構成音(低音順) | 音数 | 追加される音 |
|---|---|---|---|---|
| イタリア増六 | It+6 | A♭ - C - F♯ | 3音 | 主音(C)のみ |
| フランス増六 | Fr+6 | A♭ - C - D - F♯ | 4音 | 主音+長2度(D) |
| ドイツ増六 | Ger+6 | A♭ - C - E♭ - F♯ | 4音 | 主音+短3度(E♭) |
イタリア増六・フランス増六
2種の構成音の違いと共通の解決方法。どちらもA♭とF♯(増6度)が核心。
イタリア増六(It+6)
構成音(ハ短調):A♭ - C - F♯
♭6度(A♭)+ 主音(C)+ ♯4度(F♯) の3音
最もシンプルな増六和音。3音しかないため4声配置では必ず1音を重複する。
通常は主音(C)を重複する。
解決:A♭→G、F♯→G(Vの根音G)、C→B または D(Vの構成音)
最もシンプルな増六和音。3音しかないため4声配置では必ず1音を重複する。
通常は主音(C)を重複する。
解決:A♭→G、F♯→G(Vの根音G)、C→B または D(Vの構成音)
フランス増六(Fr+6)
構成音(ハ短調):A♭ - C - D - F♯
♭6度(A♭)+ 主音(C)+ 長2度(D)+ ♯4度(F♯) の4音
イタリア増六にD音(主音の長2度上)を加えた形。
D音は独特の「フランス的」な雰囲気を生む。
解決:A♭→G、F♯→G、C→B、D→D(保留またはDは解決でDになる)
イタリア増六にD音(主音の長2度上)を加えた形。
D音は独特の「フランス的」な雰囲気を生む。
解決:A♭→G、F♯→G、C→B、D→D(保留またはDは解決でDになる)
イタリア vs フランスの見分け方
両者は A♭・C・F♯ を共有する。フランスはD音が追加されているかどうかで区別。楽譜中でD音が♯4(F♯)と隣り合っているように見えるのがフランス増六のサイン。
両者は A♭・C・F♯ を共有する。フランスはD音が追加されているかどうかで区別。楽譜中でD音が♯4(F♯)と隣り合っているように見えるのがフランス増六のサイン。
共通の解決パターン
増6度の解決(最重要):
A♭(♭6度)→ G(半音下行)— Vの根音へ
F♯(♯4度)→ G(半音上行)— Vの根音へ
この「外側へ開く解決」がV和音のG-B-Dを確立する。
進行例: It+6 → V → i または Fr+6 → V → i
A♭(♭6度)→ G(半音下行)— Vの根音へ
F♯(♯4度)→ G(半音上行)— Vの根音へ
この「外側へ開く解決」がV和音のG-B-Dを確立する。
進行例: It+6 → V → i または Fr+6 → V → i
ドイツ増六・解決方法
3種の中で最も重要。V7と構成音が酷似し、解決時に連続5度の問題が生じるため特別な処理が必要。
ドイツ増六(Ger+6)の構成
構成音(ハ短調):A♭ - C - E♭ - F♯
♭6度(A♭)+ 主音(C)+ 短3度(E♭)+ ♯4度(F♯) の4音
フランス増六のDの代わりにE♭(短3度)を含む。
E♭は短調の♭3度(ハ短調の自然短音階に含まれる)。
この4音構成は最も豊かな響きを持つ。
フランス増六のDの代わりにE♭(短3度)を含む。
E♭は短調の♭3度(ハ短調の自然短音階に含まれる)。
この4音構成は最も豊かな響きを持つ。
ドイツ増六 vs 属七和音(V7)の比較
Ger+6(ハ短調)
A♭ - C - E♭ - F♯
→ Vへ解決(G-B-D)
E♭→D(半音下行)
F♯→G(半音上行)
A♭→G(半音下行)
→ Vへ解決(G-B-D)
E♭→D(半音下行)
F♯→G(半音上行)
A♭→G(半音下行)
変ロ長調のV7(B♭7)
B♭ - D - F - A♭
※ A♭=A♭、C=C、E♭=E♭の
異名同音的関係で似る
→ E♭長調のIへ解決
※ A♭=A♭、C=C、E♭=E♭の
異名同音的関係で似る
→ E♭長調のIへ解決
Ger+6 と V7 は「異名同音的」関係
ドイツ増六(A♭-C-E♭-F♯)と変ロ長調のV7(B♭-D-F-A♭)は構成音が異名同音的に同じ。しかし解決先が正反対:Ger+6はVへ、B♭7はE♭(I)へ解決する。この違いが重要。
ドイツ増六(A♭-C-E♭-F♯)と変ロ長調のV7(B♭-D-F-A♭)は構成音が異名同音的に同じ。しかし解決先が正反対:Ger+6はVへ、B♭7はE♭(I)へ解決する。この違いが重要。
連続5度の問題とI6/4経由の解決
問題:Ger+6 → V で連続5度が生じやすい
A♭-E♭(完全5度)→ G-D(完全5度)という連続5度が生じる可能性がある。
解決策:I6/4(四六和音)を経由する
Ger+6 → I6/4 → V → i
ハ短調の I6/4 = G-C-E♭(四六和音 = 第2転回形のiの和音)
この経由でE♭→E♭(保留)→D という滑らかな解決が実現し、連続5度を回避できる。
A♭-E♭(完全5度)→ G-D(完全5度)という連続5度が生じる可能性がある。
解決策:I6/4(四六和音)を経由する
Ger+6 → I6/4 → V → i
ハ短調の I6/4 = G-C-E♭(四六和音 = 第2転回形のiの和音)
この経由でE♭→E♭(保留)→D という滑らかな解決が実現し、連続5度を回避できる。
I6/4の役割
I6/4(四六和音)はドミナントの準備和音としても機能する。ドイツ増六→I6/4→V→i という進行はクラシック音楽で極めて一般的なパターン。楽曲分析で見かけたら増六和音の存在を疑おう。
I6/4(四六和音)はドミナントの準備和音としても機能する。ドイツ増六→I6/4→V→i という進行はクラシック音楽で極めて一般的なパターン。楽曲分析で見かけたら増六和音の存在を疑おう。
分析と見分け方
楽曲中で増六和音を発見し、3種類を区別するための実践的手順をまとめる。
増六和音を見つける手順
手順1
♯4度音(臨時♯)を探す:ハ短調ならF♯。調号にないF♯が出てきたら増六和音を疑う
手順2
♭6度音(A♭)と一緒に鳴っているか確認:A♭とF♯が同時に現れれば増六和音確定
手順3
追加音で3種を区別:C+F♯のみ = イタリア、C+D+F♯ = フランス、C+E♭+F♯ = ドイツ
手順4
解決先を確認:次にV(またはI6/4→V)が来れば増六和音の分析確定
3種の比較表(ハ短調)
| 種類 | 構成音 | 特徴 | 解決 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 伊(It+6) | A♭-C-F♯(3音) | 最シンプル | → V | 4声で重複必要 |
| 仏(Fr+6) | A♭-C-D-F♯(4音) | D音が特徴的 | → V | 独特の色彩 |
| 独(Ger+6) | A♭-C-E♭-F♯(4音) | 最豊かな響き | → I6/4→V | 連続5度に注意 |
長調での増六和音(借用)
増六和音は主に短調で使われるが、長調でも借用できる。
ハ長調でドイツ増六を使う場合:
♭6度 = A♭(♭VIからの借用)
構成音:A♭ - C - E♭ - F♯
(A♭とE♭は短調からの借用で臨時記号として書かれる)
長調での増六和音は特に印象的な効果を生む(シューベルト等が愛用)。
ハ長調でドイツ増六を使う場合:
♭6度 = A♭(♭VIからの借用)
構成音:A♭ - C - E♭ - F♯
(A♭とE♭は短調からの借用で臨時記号として書かれる)
長調での増六和音は特に印象的な効果を生む(シューベルト等が愛用)。
受験記述問題のポイント
「増六和音の3種を比較せよ」という問いには:①共通する増6度の2音(♭6と♯4)、②各種の追加音の違い、③ドイツ増六のI6/4経由の理由(連続5度回避)、④Vへの解決 — この4点を軸に答えること。
「増六和音の3種を比較せよ」という問いには:①共通する増6度の2音(♭6と♯4)、②各種の追加音の違い、③ドイツ増六のI6/4経由の理由(連続5度回避)、④Vへの解決 — この4点を軸に答えること。
演習問題(10問)
増六和音の共通構造・3種の識別・解決方法に関する問題。8問以上で添削課題へ。
添削課題(単元19)
紙に答えを書いて写真撮影後、LINEで「楽典 単元19」と明記して提出してください。
提出方法:① A4白紙に問題番号と答えを記入 ② スマホで撮影 ③ LINEの「課題提出」メニューから送信
問1(10点)
ハ短調のイタリア・フランス・ドイツ増六和音をそれぞれ五線上(または音名で)示し、各和音の構成音・特徴・解決先を説明せよ。
各和音の構成音3点、特徴1点 × 3種 = 9点、解決先1点。
問2(10点)
ドイツ増六→I6/4→V→i という進行の各和音の構成音(ハ短調)を全て答えよ。
各和音2.5点 × 4 = 10点。音名が全て正しい場合に満点。
問3(10点)
増六和音の「両端の増6度が外へ半音解決」するルールをA♭とF♯の例で説明せよ。どの音へ動くか、なぜそこへ向かうかを含めること。
A♭→G(半音下行)の説明5点、F♯→G(半音上行)の説明5点。
問4(10点)
ドイツ増六はV7(属七和音)と構成音が類似している。ハ短調でのドイツ増六(A♭-C-E♭-F♯)と変ロ長調のV7(B♭-D-F-A♭)の関係を示し、異なる解決をとる理由を述べよ。
異名同音的関係の説明4点、解決の違いの理由6点。
問5(10点)
増六和音を長調で使う場合(借用として)について説明し、ハ長調でのドイツ増六の構成音とその解決を示せ。
借用の説明4点、ハ長調での構成音3点、解決の示し方3点。
採点基準(講師用)
問配点合格目安主な失点パターン
問1 3種の比較10点8点ドイツの構成音(E♭)の混同
問2 進行の構成音10点8点I6/4の構成音を間違える
問3 解決規則10点8点「外へ開く」方向が曖昧
問4 V7との比較10点7点解決先の違いを説明できない
問5 長調での借用10点7点借用の説明が不完全
合計50点40点以上で次単元へ